選ぶのは勝手だけど
「安くて、早い」という牛丼屋のようなキャッチフレーズの車検が始まって
20年近くが過ぎています
牛丼が安くて早いのはとても助かることですが
自動車というのは便利なツールではありますが
同時に簡単に人を殺すことのできる鉄の塊の凶器でもあります
安くて早い車検ができてから、高年式の車は入ってこなくなりましたが
中には何かの縁で車検をさせてもらえることもあります
24か月の法定点検をキッチリやると、丸1日かかります
部品を拾って、注文してで早くて半日
組み上げや交換で1日
チョット込み入った整備になると2日から3日
うちで車検をすると最低でも2日はかかります
遅いか早いかは腕の問題もあるでしょうが、45分や1日ではとても終わらない
自動車の整備というものはそういうものだと思います
結果、どうしても価格が高くなるのはしょうがないこと
請求書の額面だけではわからないこともたくさんあります
どうして安くできるのかはよくわかりませんが
今は入庫している車をバラシていけば何となくわかってきます
これはブレーキパットの写真ですが
スライド部分と背面には全くグリスが見当たらない
スライド部分は光って見えますが、これはバックプレートの金属の色
この車は3回目の車検で、走行は50000キロ弱ですが
その間にブレーキキャリパーを分解した形跡が全くないわけです
もちろんリアブレーキも同じで、バックプレートの当たり面は錆びているし
本来分解してグリスを湿布するところにスプレーグリスを吹いた形跡がありました
いちばん重要なブレーキですらこの状態ならあとは推して知るべし
これが「安くて早い」の正体なのだと思います
45分や1日で車検整備を完了しなければいけないのなら
メカニックとしては、ほかに選択肢はないのかもしれません
1日に何台もノルマを課せられているのなら、メカニックに罪はないと思います
ただ、車はキッチリ整備していても故障するものです
ブレーキは何トンもの車体を止める為、
何百度の高温に晒され、水をかぶり、振動に耐えているものです
もし、スライド部分に段差ができパットが引っかかったらどうでしょう?
もし、ブレーキを引きずった状態で高温になり、フルードが沸騰したら?
人間なんて簡単に死んでしまうほどの事故は起きてしまいます
選ぶのはお客さんなので、こちらとしてはとやかく言うつもりはありません
ただ、キッチリコントロールできてこそ車は便利なツールになる
安全はお金では計れません
整備というのは、事故を未然に防ぎ、車を「走る凶器」にさせない為のもの
そういう気持ちで仕事をしているつもりです